回想録

思い出たち

ベランダでタバコを吸えるほど暖かくなってきた。

花粉の薬なしだとやっぱ目かゆいな。

そういえば最近滅多に雪を見なくなったな。

こないだまでとは気温も景色も嘘みたいに違うな。

 

今日の朝は色んな変化をを感じながら新潟のランドマークを眺めていた。

 

 

 

 

 

布団に染み付いた女の匂いは一晩経てばほぼ消えていた。

彼女がずっと抱えていたペンギンのぬいぐるみは居場所をなくしたように床に転がっていた。

彼女が居たという証拠はかろうじてまだ部屋に残っている。

 

彼女とのLINEを遡る。データとして残っているのは2,3回の数文字のやりとりと2時間の通話履歴だけ。

なかった事にしたくて全部消そうと思ったけど少なすぎてそんな気にもならなかった。

 

 

 

深夜3時。とにかく最悪な夜だった。

彼女は僕を好きだとは言わなかった。

それが悔しくて何度も抱きしめた。キスもした。彼女は拒まなかった。

一回だけでも僕を好きだって言ってくれてたらこんな苦しむこともなかったのに。

 

「なんか冷めちゃった」

朝方彼女がそう言った瞬間。キスしたり好きだって言ったり抱きしめたり、そういった行為が氷のように固まって僕の胸に突き刺さった。

好かれようとしてる自分が酷く滑稽に見えた。

彼女の言葉通り、心臓が冷えていくのをはっきり感じた。

彼女への好意はそのまま全部後悔として残った。

 

 

 

もっと人の痛みがわかるやつだと思ってた。

彼女が僕に言ったことは全部中途半端だった。

別れ際、本当のことを言ってくれてたら、二度と会いたくないと拒絶してくれたら、嫌いだってはっきり言ってくれたら、期待なんてしなくて済むのに。

まだやり直せるなんて思いたくないんだ。

「友達としてなら」なんて嘘つくなよ。

 

 

彼女に思いつく悪口はそれぐらいだけどそれだけじゃ僕は彼女のことを嫌いになれなかった。

僕に呪いを残したまま彼女はとっくに明日にも明後日にも、そのずっと先に繋がる”今日”を始めてる。

好きだって気持ちも、やり直せるかもって期待も捨て去って僕も先に進むべきだ。

だからどうにかこの出来事を消化できるようなサイズまで小さくしなくちゃいけなかった。

 

もう悪い事に頼るしかない、そう思った。幸いにも今日はそれを許してくれる日であった。

 

 

 

 

 

「彼女のことなんて好きじゃなかった。気の迷いだった。ちょっとエロいことがしたいだけだった。」

そんな嘘を自分につく事にした。